相続放棄と遺族年金


遺族年金を受け取ると、財産の相続したことになってしまいますか。


先日、父が亡くなり、債務超過のため家庭裁判所で相続放棄手続きをしました。市役所に行くと、未支給年金が支給されるとの事でしたので、手続きを行いました。未支給年金は相続放棄しても受け取って問題ないとの説明を受けましたが、心配になりました。受取った場合、放棄した債務を背負うことになるのでしょうか。


回答
遺族年金は、相続するのではなく、法律の規定に基づき、亡くなった方と一定の関係があった遺族に与えられるものです。その人の固有の権利です。相続とは、関係ありません。特別受益にもなりません。
相続放棄しても、遺族年金を受け取ることができますし、遺族年金を受け取っても、相続放棄できます。
未支給の年金給付は、法律の規定に基づき生計を同じくしていた遺族に支給されます(厚生年金保険法37条、国民年金法 第19条第1項、共済年金法第47条)。これも、相続とは関係ありません。相続放棄しても受取れます。

判決
  1. 大阪家庭裁判所昭和59年4月11日審判(出典:家庭裁判月報37巻2号147頁)
    そこでこれを遺産として分割の対象とすることができるか検討するに厚生年金保険法58条は被保険者の死亡による遺族年金はその者の遺族に支給することとし、同法59条で妻と18歳未満の子が第一順位の受給権者としているが、同法66条で妻が受給権を有する期間子に対する遺族年金の支給を停止すると定めている。
    そして妻と 子が別居し生計を異にした場合でも分割支給の方法はなく、その配分の参考となる規定はない。そうすると同法は相続法とは別個の立場から受給権者と支給方法を定めた ものと入られ、相手方が支給を受けた遺族年金は同人の固有の権利にもとづくもので被相続人の遺産と解することはできない
    それではこれを相手方の特別受益財産として遺産分割上持戻計算することができるであろうか。その場合受益額の算定は困難であり、かりに平均余命をもとに相手方の 生存年数を推定し、中間利息を控除する算式では1367万円となるが、これを相続開始時の特別受益額と評価することは明らかに過大であつて、受給者の生活保障の趣旨に沿わない結果となる。更に遺族年金の受給自体民法903条規定の遺贈又は生前贈与に直接該当しない難点がおる。
    結局本件遺産分割において遺族年金の受給、配分を考慮することはできない。
  2. 最高裁判所平成7年11月7日判決(出典:判例タイムズ896号73頁)
    国民年金法19条1項は、「年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、 その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求 することができる。」と定め、同条5項は、「未支給の年金を受けるべき者の順位は、第1項に規定する順序による」と定めている。
    右の規定は、相続とは別の立場か ら一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となる ものでないことは明らかである。